実家を相続したものの、きょうだいの一人が「まだ手放したくない」と反対していて、話が一向に進まない——。一戸建てを含む不動産を複数人の共有名義で相続した場合、こうした膠着状態は珍しくありません。共有名義の不動産は、原則として共有者全員の同意がなければ売却できないためです。一人でも反対すれば、残りの共有者がどれだけ売りたいと思っていても、実家は”凍ったまま”になってしまいます。この記事では、話し合いではどうしても決着がつかないときに検討できる「共有物分割請求訴訟」という法的な解決方法について、わかりやすく解説します。

実家を相続したのですが、兄が「まだ売りたくない」の一点張りで、何年も話が進んでいません…。このままずっと放っておくしかないのでしょうか?

それはお困りですね。実は、話し合いがどうしてもまとまらない場合には、裁判所を通じて共有関係を解消する「共有物分割請求訴訟」という手続きがあります。今日はその仕組みを一緒に見ていきましょう。
なぜ共有名義の実家は一人の反対で売却が止まるのか
一戸建てなどの不動産を複数人で共有している場合、建物や土地全体を売却するには共有者全員の同意が必要になります。一方で、共有者が自分の持分だけを売ったり譲ったりすることは単独でも行えます(自分の持分だけを売る方法については、共有名義の実家、兄弟の同意が得られない…自分の持分だけを売ることはできる?の記事で詳しく解説しています)。つまり、”実家全体”を売ろうとすると全員の同意が必須になる一方、”自分の持分”だけなら単独でも動かせる、というねじれが生じるわけです。きょうだいで実家を相続した際に、誰か一人でも「まだ踏ん切りがつかない」と反対すると、残りの共有者の意思だけでは売却を進められません。こうした膠着状態がなぜ起きやすいのかは、実家を”半分ずつ”相続、それって本当に平等?兄弟で売却が止まる理由の記事でも詳しく触れています。
話し合いで決まらない時の最終手段「共有物分割請求訴訟」とは
共有者同士でどれだけ話し合っても意見がまとまらない場合、共有者は単独で、他の共有者を相手に「共有物分割請求訴訟」を起こすことができます(民法258条)。共有関係は、本来いつまでも続けることを強制されるものではなく、共有者には共有状態を解消する権利が認められているためです。この共有物分割のルールは、2023年4月1日に施行された民法改正でも見直しの対象になりました。話し合いでの解決を目指す調停とは異なり、相手の同意がなくても、最終的には裁判所の判断で共有関係の解消方法が決まる点が特徴です。

裁判って聞くと、なんだか大ごとに感じてしまいます…。本当にそこまでしないといけないんでしょうか?

あくまで「話し合いでどうしても決まらないときの最終手段」というイメージです。実際には、訴訟を起こす前提で話し合いが進み、途中で和解に至るケースも少なくありません。
裁判所が共有関係を解消する3つの方法
共有物分割請求訴訟で裁判所が共有関係の解消方法を判断する際には、主に次の3つの方法が検討されます(民法258条2項・3項)。
- 現物分割:土地などを物理的に分けて、それぞれの単独所有にする方法。ただし、建物が建っている一戸建ての場合、建物ごと分割することは現実的に難しく、選ばれにくい方法です。
- 賠償分割(全面的価格賠償):共有者の一人が不動産を単独で取得し、他の共有者にはその持分に応じた代金(賠償金)を支払う方法。
- 換価分割(競売による分割):現物分割や賠償分割では解決が難しい場合に、裁判所が不動産の競売を命じ、その代金を持分の割合に応じて共有者で分け合う方法。
条文上は、現物分割と賠償分割(全面的価格賠償)がまず検討され、どちらも難しい場合の受け皿として換価分割(競売)が位置づけられています。競売は裁判所が主導する手続きのため、一般の仲介による売却に比べて売却価格が下がりやすいと言われることがあります。※実際の価格差は物件や時期によって異なります。できることなら、訴訟に至る前に、任意の話し合いで実勢価格に近い金額を把握しておくほうが、手元に残るお金の面でも有利になりやすいでしょう。

裁判所に決めてもらうと、思ったより安い金額になってしまうこともあるんですね…。できれば避けたいです。

そうなんです。だからこそ、本当に訴訟になる前の段階で、実勢価格に近い金額を把握しておくことが大切なんですよ。
訴訟になると、どのくらいの期間・費用がかかる?
共有物分割請求訴訟は、通常の民事裁判と同様の手続きで進みます。当事者同士の主張や証拠のやり取りが必要になるため、解決までに半年から1年以上かかることも珍しくないと言われています。※実際の審理期間は、共有者の人数や争いの内容によって大きく異なるため、個別の事案については弁護士への確認をおすすめします。費用の面でも、訴訟費用に加えて、不動産の評価をめぐる鑑定費用や弁護士費用がかかるケースが一般的です。話し合いで解決できれば、こうした時間や費用の負担を大きく抑えられます。
訴訟になる前に検討したい選択肢
共有物分割請求訴訟は、あくまで最後の手段です。実際には、その手前で検討できる方法もいくつかあります。たとえば、自分の持分だけを売却する方法(こちらの記事で詳しく解説しています)や、きょうだいの一人が他の持分を買い取る”代償分割”という方法(こちらの記事)も選択肢になります。また、共有者の中に連絡が取れない人がいる場合は、今回とは別の制度(こちらの記事)が使えることもあります。どの方法が自分たちのケースに合うかは、早めに不動産会社や弁護士に相談しながら検討しておくことをおすすめします。
まとめ:反対されて動けない実家こそ、まず価格を把握することから
きょうだいの一人が反対しているからといって実家をそのまま放置していると、固定資産税の負担や老朽化のリスクだけが積み重なっていきます。共有物分割請求訴訟は時間も費用もかかる手続きのため、できればそこに至る前に、話し合いの材料となる”今の実勢価格”を把握しておくことが解決の近道になります。査定で価格の目安を知っておくだけでも、きょうだい間の話し合いが前に進みやすくなることがあります。
※本記事の内容は、法務省の民法改正に関する資料およびMC法律事務所の解説記事(いずれも2026年10月時点の公開情報)を参考にしています。
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