実家を相続したものの、兄弟姉妹の一人と何年も連絡が取れていない――そんな心当たりはありませんか? 不動産は相続人全員の関与がなければ名義変更も売却も進められないのが原則のため、「連絡が取れない」というだけで、実家の相続手続きそのものが止まってしまうケースは少なくありません。この記事では、そうした場合に使える不在者財産管理人という制度の仕組みと、2023年の民法改正で新設された別の制度との違いを分かりやすく解説します。

兄が実家を出てから15年以上音信不通で、今どこに住んでいるのかも分かりません…。このままだと実家の相続手続きはどうなるんでしょうか?

それはお困りですね。実は相続人の中に連絡が取れない方がいる場合、”不在者財産管理人”という制度を使うことで、手続きを前に進められる可能性があります。今日はその仕組みを一緒に整理していきましょう。
なぜ「連絡が取れない」だけで、実家の相続手続きが止まってしまうのか
相続が発生すると、誰がどの財産を引き継ぐかを相続人全員で話し合う遺産分割協議が必要になります。遺産分割協議は、相続人が一人でも欠けた状態で行うと法的に無効になってしまうため、連絡が取れない相続人がいる場合、他の相続人だけで話を先に進めることができません。実家の名義を代表者に変更する相続登記や、その後の売却も、この遺産分割協議が終わっていなければ着手できないのが原則です。
すでに相続登記が済んで共有名義になった実家について、共有者同士の意見が合わずに売却できないケースについては、以前の記事「実家の共有者が売却に反対したら?話し合いで決まらない時の”共有物分割請求訴訟”とは」でも解説していますので、あわせてご覧ください。
「連絡が取れない」と「所在等不明」は同じ? 2023年の新制度との違い
2023年の民法改正では、すでに共有名義になっている不動産を売却しやすくするために「所在等不明共有者」という新しい制度もできました。これは、他の共有者が裁判所の許可を得ることで、所在が分からない共有者を除いた形で不動産を処分できるようにする制度です。ただしこの制度が使えるのは、すでに共有名義として登記された不動産の処分(売却や持分の取得)に限られ、誰が何を相続するかを決める遺産分割協議そのものには使えません。この違いについては、以前の記事「実家の共有者と連絡が取れない…それでも売却できる?2023年民法改正の新制度」で詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
“不在者財産管理人”とは何か
民法25条でいう「不在者(ふざいしゃ)」とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みがない人のことです。ここで重要なのは、生死が分からない状態を指す「失踪」とは違い、その人が生きていることを前提に、財産を代わりに管理する制度だという点です。生死不明の状態が一定期間(普通失踪で7年など)続いた場合に死亡したものとみなす「失踪宣告」とはまったく別の制度であり、不在者財産管理人を選んだあとも、その人は法律上あくまで相続人のままです。
何もせず放置していると、実家はどうなるのか
遺産分割協議が終わらないあいだ、実家は法律上、相続人全員の共有名義という状態のまま扱われます。この状態が続くと、固定資産税の支払いや老朽化した建物の管理について、相続人のあいだで責任があいまいになりやすく、誰も住んでいない実家が傷んでいくのを食い止められないまま時間だけが過ぎてしまう、というご相談も少なくありません。また、2024年4月からは相続登記の申請が義務化されており、「連絡が取れないから」と放置していること自体がリスクになり得る点にも注意が必要です。相続登記の義務化については、以前の記事「実家の相続登記、まだ済んでいませんか?義務化の猶予期限が目前に迫っています」で詳しく解説しています。
不在者財産管理人を使って、実家の相続手続きを進める流れ
不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる際の、主なポイントを整理します。
- 申立てができる人:他の相続人など利害関係人、または検察官
- 申立先:不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所
- 申立費用:収入印紙800円と郵便切手が基本。これに加えて、弁護士や司法書士などの専門家が管理人に選ばれる場合などには、その報酬等に充てる予納金として数十万円程度が必要になることもあります
- 選任された不在者財産管理人が、不在者に代わって遺産分割協議に参加したり、実家を売却したりするには、別途家庭裁判所の「権限外行為許可」(民法28条)を得る必要があります
申立てに必要な書類の準備や、家庭裁判所での審理には相応の時間がかかります。「連絡が取れないから」と後回しにするほど、相続登記や売却の着手も遅れてしまうため、早めに動き出すことが大切です。

予納金が数十万円かかることもあるんですね…。思っていたより大変そうです。

簡単な手続きではありません。ですが、連絡が取れないことを理由に実家をそのままにしておくよりは、早めに弁護士や司法書士に相談して動き出した方が、結果的に負担は小さくなることが多いですよ。
まとめ:「連絡が取れない」であきらめる前に、できることがある
相続人の一人と連絡が取れないというだけで、実家の相続や売却を最初からあきらめてしまう必要はありません。遺産分割協議そのものを進めたい場合は不在者財産管理人、すでに共有名義になった不動産を処分したい場合は2023年にできた所在等不明共有者制度と、状況に応じて使える制度が異なります。まずは弁護士や司法書士といった専門家に、今の状況を整理してもらうところから始めてみてください。
※本記事の内容は、裁判所(courts.go.jp)の不在者財産管理人に関する解説および不動産・税務専門メディアの解説記事(2026年11月時点の公開情報)を参考にしています。
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