実家の給排水管、気づかないうちに隣の土地を通っていませんか?
古い一戸建てを相続したものの、「水道管やガス管が、実は隣の家の敷地の下を通っている」というケースは少なくありません。何十年も前に建てられた家では、敷地の形や配管の都合で、お隣の土地を経由して水道や排水を引いていることがあるのです。普段の生活では気づきにくいポイントですが、売却の段階になって初めて発覚し、話がストップしてしまうことも珍しくありません。実はこの問題に関わる重要なルールが、2023年の民法改正で新しく整備されました。今日はその内容を分かりやすく解説します。

実家の水道管、お隣の敷地の下を通っているらしいんです…。これって売るときに問題になりますか?

古い家ではよくあることです。実は2023年4月から、こうしたケースに対応する新しいルールが民法に加わりました。今日はそのしくみを一緒に確認していきましょう。
そもそも「ライフライン設置権・使用権」とは?
令和5年(2023年)4月1日に施行された改正民法では、電気・ガス・水道といった継続的な供給(ライフライン)を受けるために、他人の土地に新しく設備を設置したり、すでにある他人の設備を使わせてもらったりできる権利が明文化されました。これが民法213条の2(ライフライン設備の設置権)・213条の3(設備の使用権)です。ポイントは、こうした設備がないと電気・水道などの供給を受けられない土地であれば、隣接していない土地であっても対象になるという点です。
この権利が成立するために、相手の土地所有者の承諾は必要ありません。一定の要件を満たせば、法律上当然に認められる権利だからです。ただし、だからといって無断で工事を始めてよいわけではなく、権利を行使する前には必ず守るべき手続きがあります。

承諾がいらないんですか?それなら、お隣に何も言わずに工事してもいいということですよね?

そこが誤解しやすいポイントです。承諾は不要でも、事前の通知は必須なんです。ここを飛ばすと、せっかくの法定の権利でもトラブルの火種になってしまいます。
工事の前に必要な「事前通知」と、お金(償金)のルール
ライフライン設置権・使用権を行使するときは、工事の前に「目的・場所・方法」を、設備を設置する土地の所有者や、その土地を実際に使っている人(借地人など)にあらかじめ通知する必要があります。通知から工事開始までの期間について法律に具体的な日数の定めはありませんが、実務上は2週間から1か月程度の余裕を持って通知するのが一般的とされています。なお、相手の所在がどうしても分からない場合は、裁判所の公示による方法(民法98条)で通知したものとみなすことも可能です。
また、設備を設置する場所や方法は、相手の土地にとって損害が最も少ないものを選ばなければならないという配慮義務も定められています。好き勝手な場所に通せるわけではない、という点も覚えておきたいポイントです。
お金の面では、次のように整理されています。
- 工事による一時的な損害:工事のときに生じる損害は、一括で償金を支払います。
- 設備を置き続けることによる継続的な損害:土地を使い続けることへの償金は、1年ごとの定期払いにすることができます。
- 分割・一部譲渡によって生じた土地の特則:もともと一つだった土地を分割・譲渡した結果、その土地にしか設備を設置できなくなった場合は、継続的な損害についての償金が免除されます。

うちの実家、もともと親戚の土地と一緒だったものを分けたと聞いたことがあります…。そういう場合も関係してきますか?

その可能性はあります。もともと一つの土地が分かれた経緯があるなら、先ほどの特則が関わってくるケースです。配管の経路と、土地が分かれた経緯を一度整理してみるとよいですね。
売却時に気をつけたいポイント
この規定が売却時に重要になるのは、配管の経路が買主にとって見えにくいリスクだからです。敷地の下に埋まっている配管は、見た目だけでは分かりません。売買契約の前に、配管図や過去の工事記録を確認し、隣地を通っている部分がないかを把握しておくことが欠かせません。もし隣地を通っていることが分かった場合は、これまでにその土地の所有者とどのような取り決め(通行承諾書や覚書など)があったのかも、合わせて確認しておくと安心です。
なお、境界や近隣の土地に関わるトラブルは、配管だけに限りません。たとえば、お隣の木の枝が敷地に越境しているケースについては、以前の記事「実家に隣の木の枝が越境していたら?自分で切除できる新ルールと売却前の注意点」でも、同じ2023年の民法改正の内容を解説しています。あわせてご覧いただくと、相隣関係のルール全体がつかみやすくなります。
また、境界標がそもそも見当たらない実家の場合は「境界標が無い一戸建ては売却できますか?」、権利関係が複雑に絡み合っている場合は「複雑な権利関係でも一戸建ての売却は出来ますか?」の記事でも詳しく取り上げていますので、ご自宅の状況にあわせて参考にしてください。

配管の図面なんて、実家にあるかどうかも分からないです…。どこを調べればいいのでしょうか?

水道局などの水道事業者に配管図面の有無を確認する方法があります。ご自身で調べるのが難しければ、不動産会社に相談しながら進めるのが現実的です。無理に一人で抱え込まなくて大丈夫ですよ。
まとめ:気づいたときが、整理を始めるタイミング
2023年4月に施行された民法213条の2・213条の3により、電気・ガス・水道のライフラインを引くために他人の土地を使う権利が明文化されました。相手の承諾は不要ですが、工事の前には目的・場所・方法を通知する義務があり、設置場所は相手の損害が最も少ない方法を選ぶ必要があります。費用面では、工事の一時的な損害は一括で、設備を置き続けることへの損害は定期払いで償金を支払うのが基本のルールです。実家の配管がどこを通っているか分からないという方は、売却を具体的に考え始める前に、まず今の状態を確認しておくことをおすすめします。
※本記事の内容は法務省が公表する民法等の一部を改正する法律(相隣関係等の見直し、令和5年4月1日施行)に関する解説資料を参考にしています。
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